1. 「うちの営業、完全に属人化している」と気づいた経営者へ
中小企業の経営者の方から、こんな言葉をよく聞きます。
「正直、営業がどう動いているのか、自分でも把握できていない。トップ営業が辞めたら数字が止まることは分かっている。でも、それを変えるために何から手をつければいいのか分からない」
このご相談に対する私の答えは、いつも同じです。
「まず、営業プロセスを”段階”に分けて、それぞれの数字を見えるようにしましょう」
それが、ファネル分解です。
BtoB営業の”勘と気合”から卒業する 5ステップでも触れた通り、営業の仕組み化はファネル可視化から始まります。ただ、「ファネル分解」と言葉で言うのは簡単でも、実際にどうやって自社の営業を分解し、どんな指標を測ればいいのかは、現場では分かりにくい。
この記事では、営業の属人化を解く第一歩としてのファネル分解を、できる限り具体的な手順で整理します。「できる営業マンしか回せない」状態から、「誰がやっても一定の水準で進む」状態に変えていくための、最初のロードマップです。
2. なぜファネル分解が、属人化を解く第一歩なのか
ファネル分解の話に入る前に、なぜこれが属人化対策の起点なのかを共有させてください。
属人化が起きている営業現場では、共通して**「プロセスが言語化されていない」**という状態があります。
- どこから商談が生まれているのか分からない
- どの段階で失注が多いのか分からない
- できる営業マンが何をしているから成果が出ているのか分からない
これらすべての”分からない”の正体は、営業活動が「ひとつの塊」として捉えられていることです。リードを取る活動、アポを取る活動、商談する活動、クロージングする活動──これらを区別せず、「営業」と一括りにしている。
塊のままでは、改善のしようがありません。「営業を強くしよう」と言っても、何をどう強くするかが見えない。だから、毎月「数字が伸びませんでした」「来月はもっと頑張ります」を繰り返すしかなくなる。
ファネル分解とは、この”塊”を意図的に分解する作業です。分解すれば、初めて「どの段階に問題があるのか」「どこを変えれば数字が変わるのか」が見えてくる。見えれば、誰でも改善に参加できる。これが、属人化を解く第一歩になります。
3. ファネルを5段階に切り分ける ― BtoB中小企業の標準形
では、具体的にどう分解するのか。BtoB中小企業の営業ファネルは、以下の5段階に切り分けるのが標準です。
段階①:リード獲得
見込み客の連絡先や認知を獲得する段階。
- Webサイト経由の問い合わせ
- 展示会・セミナーでの名刺交換
- 既存顧客からの紹介
- 広告経由の資料ダウンロード
段階②:アポ獲得(商談機会の創出)
リードに対してアプローチし、商談の場を設定する段階。
- インサイドセールスの架電・メール
- 紹介経由の初回ミーティング設定
- イベント来場者へのフォローアップ
段階③:商談(ニーズヒアリング・提案)
実際に顧客と対面し、課題のヒアリングと自社サービスの提案を行う段階。
- 初回ヒアリング
- 提案資料の準備と提示
- 質疑応答・要件すり合わせ
段階④:見積・クロージング
提案内容を踏まえた見積を提示し、契約意思決定を促す段階。
- 見積書の作成・提示
- 競合比較への対応
- 決裁者への最終確認・契約条件の調整
段階⑤:受注・継続
契約締結後の納品、運用、追加提案、契約更新までの段階。
- キックオフ・初期納品
- 運用フォロー
- 追加提案・契約更新
業種や商材によって、もう少し細かく分ける場合もあります。たとえば「アポ獲得」を「初回接触」と「日程調整」に分ける、「商談」を「初回ヒアリング」と「提案」に分ける、など。最初は5段階でシンプルに始めて、運用しながら細分化するのが現実的です。
4. 各段階で測るべき2つの指標 ― 通過率と所要日数
5段階に分けたら、各段階で測るべき指標は2つだけです。
指標①:通過率(次の段階に進む率)
- リード獲得 → アポ獲得:何%がアポになるか
- アポ獲得 → 商談:何%が商談まで進むか
- 商談 → 見積:何%が見積依頼まで進むか
- 見積 → 受注:何%が受注になるか
この通過率を見ると、どの段階で機会を失っているかが一目で分かります。
たとえば「リード獲得 → アポ獲得:50%」「アポ獲得 → 商談:80%」「商談 → 見積:30%」「見積 → 受注:70%」というファネルだとしたら、ボトルネックは明らかに「商談 → 見積」の段階。商談はできているのに、提案内容が刺さっていない、もしくは予算的なフィット感が悪い、という仮説が立てられる。
指標②:所要日数(次の段階に進むまでの平均日数)
- リード獲得から、アポ獲得まで:平均◯日
- アポ獲得から、商談実施まで:平均◯日
- 商談から、見積提示まで:平均◯日
- 見積から、受注まで:平均◯日
この所要日数を見ると、どこで案件が”止まっている”かが分かります。
「見積から受注まで平均60日」というファネルがあったら、それは何かが止まっている。決裁プロセスに時間がかかっているのか、競合比較に時間がかかっているのか、見積の説明が不足しているのか──仮説を立てて、改善の打ち手が打てるようになる。
通過率と所要日数。この2つだけで、営業の課題は8割が見えるようになります。
5. ボトルネックの見つけ方と、3つの典型パターン
ファネルを可視化すると、必ずどこかにボトルネックが現れます。BtoB中小企業で頻発するパターンは、以下の3つです。
パターンA:リード不足型(段階①が細い)
商談以降の通過率は悪くないのに、そもそもリードの絶対数が足りない。だから売上が頭打ちになる。
このパターンの会社は、営業を強化しても数字が伸びません。必要なのはマーケティング側の手当て。Webからの流入、コンテンツ施策、広告、リードジェン施策。営業組織だけを見ていても、永遠に解決しません。
パターンB:アポ獲得が苦手型(段階①→②の通過率が低い)
リードはそれなりに取れているのに、アポ獲得率が低い。リードリストが活用されず、放置されている。
このパターンは、インサイドセールスの不在が原因の場合が圧倒的に多い。営業担当者がフィールドセールス(商談・受注)に集中していて、リードへの初動アプローチが手薄になっている。インサイドセールス専任を作る、もしくは外部パートナーに委託するのが定石です。
パターンC:クロージング弱型(段階③→④、④→⑤の通過率が低い)
商談まではできているのに、見積以降で失注が多い。「あと一歩」で逃している案件が積み重なっている。
このパターンは、提案内容と顧客課題のミスマッチが起きていることが多い。商談時のヒアリングが浅い、競合との差別化ポイントが伝わっていない、決裁プロセスの理解が不足している。ヒアリング項目を標準化し、決裁者を早期に巻き込む仕組みを作ることで改善します。
これらのパターンは、ファネルが見えていないと診断不能です。逆に言えば、ファネルさえ見えれば、自社がどのパターンにあるかは1ヶ月で分かる。そこから改善が始まります。
6. ファネルが見えたら、次は「分業設計」へ
ファネル分解の真の価値は、可視化そのものではありません。可視化を経て、誰がどこを担当するかを再設計できることにあります。
属人化している営業組織では、1人の営業マンが段階①〜⑤までを全部担当しています。これが属人化の構造そのもの。
ファネルが見えると、「この段階は別の人がやった方がいい」「この段階は外部に出してもいい」という判断ができるようになります。
分業設計の基本パターン
マーケティング担当(段階①) リード獲得を担当。Web施策、広告、コンテンツ、展示会など。
インサイドセールス(段階②) リードへの初動アプローチ、アポ獲得を担当。架電・メール・SNSなどのチャネルを使い分ける。
フィールドセールス(段階③〜④) 商談・提案・クロージングを担当。顧客課題の深掘りと、自社ソリューションのフィッティング。
カスタマーサクセス(段階⑤) 受注後の納品・運用・継続提案を担当。契約継続率・追加提案を生む役割。
中小企業でいきなりこの4分業を作るのは現実的ではありません。最初は、
- 段階①〜②をマーケ・インサイド側に集約(外部パートナーへの委託も検討)
- 段階③〜④をフィールドセールスが担当
- 段階⑤を経営者または別担当が担当
という3分業から始めるのが定石です。これだけでも、属人化の構造は大きく崩れます。
7. 雄喜晃の伴走:ファネル可視化から、分業設計、外部活用まで
私たち雄喜晃株式会社の営業組織支援は、営業ノウハウの研修ではありません。
経営者の方と一緒にファネルを書き出し、現状の通過率と所要日数を測れる仕組みを作り、ボトルネックを特定し、分業設計に落とし込み、必要に応じてインサイドセールスのBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)まで担う。これが私たちのスタンスです。
「インサイドセールスを社内に置きたいけれど、採用も育成も難しい」というご相談には、雄喜晃が外部のインサイドセールスチームとして稼働する選択肢もあります。リードへの架電・メール対応・アポ取得まで、伴走者として実務を担当します。
「営業を強くしたい」というお気持ちに対して、私たちが最初にお伝えするのは、**「営業を強くする前に、営業を見えるようにしましょう」**ということ。順序が逆になっている会社が、本当に多いのです。
8. まとめ:見えるところからしか、変えられない
営業の属人化を解く第一歩は、ファネル分解です。やるべきことは、3つだけ。
- 営業プロセスを5段階に切り分ける
- 各段階の通過率と所要日数を測る
- ボトルネックを特定し、分業設計につなげる
この3つを、ツールに頼らず、まずはExcelやスプレッドシートで構いません。1ヶ月運用するだけで、営業の景色は確実に変わります。
「うちの営業、完全に属人化している」と感じている経営者の方は、まず自社のファネルを5段階に書き出すところから始めてみてください。書き出した時点で、すでに半歩前進しています。
ご不明点があれば、お気軽にお話を聞かせてください。見えていないものを、一緒に見える形にするところから。仕組み化の旅は、いつもそこから始まります。