1. 「マーケ担当を採用したいんだけど、どんな人を取ればいい?」
中小企業の経営者の方からいただくご相談で、もっとも多いもののひとつがこれです。
「これまで代理店に任せてきたけれど、そろそろ社内にマーケティング担当者を置きたい。1人目を採用するなら、どういう人がいいだろうか」
このご相談に対して、私はいつもこう返します。
「採用要件を考える前に、決めておくべきことが5つあります」
なぜなら、中小企業がマーケ担当者の初採用に失敗する最大の原因は、スキルセットのミスマッチではなく、社内側の準備不足だからです。「いい人を採れなかった」のではなく、「いい人が来ても活躍できない構造のまま採用してしまった」ケースが圧倒的に多い。
「マーケティングが社内に根付かない」3つの本当の理由でも触れたように、中小企業のマーケが仕組みとして機能しない原因は構造にあります。マーケ担当者の1人目採用は、その構造を作ってしまうか、変える契機にできるかの分かれ道です。
この記事では、採用要件を書き始める前に、経営者が必ず決めておくべき5つの観点を整理します。
2. なぜ”1人目”の採用は、特に失敗しやすいのか
具体的な5項目に入る前に、まず「なぜ1人目は失敗しやすいのか」の構造を共有させてください。失敗の構造を理解しておくと、何を準備すべきかが自ずと見えてきます。
失敗構造①:「全部やってくれる人」を期待してしまう
社内に前任者がいない状態で初めてマーケ担当を採るとき、経営者は無意識に**「マーケに関わるすべての業務を任せる」**という期待を持ってしまいます。
戦略立案、SNS運用、広告運用、コンテンツ制作、レポート作成、代理店との折衝──これらすべてを1人に任せようとする。しかし、これらはそれぞれ別のスキルセットであり、1人ですべてを高いレベルで実行できる人材は、まずいません。仮にいたとしても、中小企業の給与水準では採用できない。
失敗構造②:評価軸が決まっていない
採用してから3ヶ月後、6ヶ月後の評価面談で「期待していた成果が出ていない」と感じる。しかし、よく聞いてみると、経営者と担当者の間で、何をもって”成果”とするかの合意がない。
「もっと数字が伸びると思っていた」「もっと提案してくれると思っていた」──こうした感覚的な不満は、評価軸を事前に決めなかったツケです。
失敗構造③:相談相手が経営者しかいない
中小企業のマーケ1人目は、社内に同じ専門性を持つ人がいません。ということは、判断に迷ったとき、相談相手は経営者だけ。
経営者がマーケに詳しくない場合、相談しても具体的なフィードバックが返ってこない。担当者は孤独に意思決定を続け、徐々にモチベーションを失っていく。これは中小企業のマーケ1人目が1〜2年で離職する典型的なパターンです。
失敗構造④:仕組み化の意識がないまま採用する
「この人に任せれば回る」と思って採用するため、業務がその人個人に最適化されていきます。気づけば新たな属人化が始まっている。3年後、その担当者が退職したら、また同じゼロからのスタートに戻る。
この4つの失敗構造を回避するために、採用前に決めておくべきことがあります。
3. 決めておくべき項目①:業務範囲を「戦略・実行・運用」の3層で切り分ける
最初に決めるべきは、1人目に任せる業務範囲です。
「マーケティング業務」と一括りにせず、3つの層に分けて考えます。
戦略層(年単位の方向性)
事業ゴールに合わせたマーケティング戦略の立案、年間予算配分、KPIツリー設計、市場と競合の分析。
実行層(月単位の施策設計)
月次の施策プランニング、コンテンツ企画、広告クリエイティブの方向性、代理店への発注内容の設計。
運用層(週・日単位のオペレーション)
SNS投稿、広告入稿、レポート作成、データ集計、定例会議の運営。
中小企業のマーケ1人目に任せるべきは、実行層と運用層です。戦略層は経営者と外部パートナー(雄喜晃のような伴走支援者)が担い、運用層の一部は引き続き代理店に任せる、という分担が現実的です。
「戦略から運用まで全部任せる」と決めて採用すると、ほぼ確実に失敗します。1人目に戦略レイヤーまで任せられるのは、企業規模が大きくなってからです。
4. 決めておくべき項目②:KPIと評価軸を、入社前に文書化する
次に決めるべきは、入社後の評価をどう行うか。
採用面接の段階で、口頭ではなく文書で次のような項目を提示できる状態を作ります。
- 3ヶ月時点の到達目標:たとえば「主要施策の現状把握と、月次レポート体制の構築」
- 6ヶ月時点の到達目標:たとえば「自社チャネル経由のリード数を月◯件まで安定させる」
- 1年時点の到達目標:たとえば「特定領域(SNS or 広告 or コンテンツ)を社内で完結できる体制を作る」
この目標設定で大事なのは、短期は”プロセス指標”、中長期は”成果指標”を置くこと。
入社直後から「売上を上げてください」と言っても、現場を理解する時間が必要です。最初の3ヶ月は「業務の棚卸しが完了している」「振り返り体制が動いている」といったプロセス指標を置く。半年〜1年経って、ようやく成果指標で評価できるフェーズになります。
評価軸を曖昧にしたまま採用すると、お互いに不満を抱えたまま1年が過ぎる。これは経営者にとっても、採用された担当者にとっても、もっとも避けるべき展開です。
5. 決めておくべき項目③:代理店・外部パートナーとの関係を、入社前に整理する
3つ目は、入社時点で代理店をどう扱うかを決めておくこと。
中小企業のマーケ担当1人目が入社した瞬間、必ず直面するのが「既存の代理店との関係をどうするか」という問題です。
選択肢は3つあります。
選択肢A:代理店との契約は維持し、1人目は”発注者”として関わる
もっとも現実的な選択。1人目は代理店をコントロールする側として、戦略の伝達・評価・改善提案のやり取りを担当する。代理店依存から抜け出す3ステップで書いた通り、主導権を社内に取り戻すための役割です。
選択肢B:代理店との契約を縮小し、1人目に内製化を推進してもらう
入社後6ヶ月〜1年かけて、特定領域(たとえばSNS運用)を内製化する。代理店契約は段階的にスリム化する。
選択肢C:代理店との契約を即時終了し、1人目に全業務を引き継ぐ
もっともリスクが高い選択。引き継ぎが不十分なまま業務を移管すると、ナレッジが失われ、運用が止まる。特別な事情がない限り推奨しません。
ここで決めるべきは、「どの選択肢を取るか」だけではなく、**「いつ、誰が、どうやって代理店との関係を1人目に伝えるか」**まで。
採用面接の段階で、「現在こういう代理店と契約があり、入社後はこう変えていく予定です」と明確に伝えることで、応募者側も自分の役割をイメージできます。これがないまま入社すると、「何を期待されているのか分からない」という入社直後の混乱が始まります。
6. 決めておくべき項目④:育成・サポート体制を、社外も含めて設計する
4つ目は、入社後の担当者をどう育てるか。
中小企業のマーケ1人目は、社内に師匠がいません。だから、社外を含めたサポート体制を意図的に作る必要があります。
サポート体制の3層構造
第1層:経営者との週次1on1
事業の方向性、優先順位、判断基準のすり合わせ。経営者がマーケに詳しくなくても構いません。「事業として何を目指しているか」を伝える時間として、必ず週次で確保する。
第2層:外部メンター・伴走支援
マーケティングの専門的な意思決定について、月1〜2回相談できる外部の壁打ち相手を確保する。雄喜晃のような伴走型コンサルや、信頼できるフリーランス、業界経験者の顧問など。
第3層:コミュニティ・学習リソース
オンラインのマーケティングコミュニティ、書籍・セミナーの予算を、入社時点で会社として確保する。月3万円程度の学習予算を設けるだけで、担当者の成長スピードは大きく変わります。
この3層を採用前に設計しておくことで、入社後の孤独を予防できます。マーケ1人目の早期離職は、ほぼすべて孤独が原因です。
7. 決めておくべき項目⑤:仕組み化を前提とした業務設計を、入社1ヶ月目から始める
5つ目が、もっとも見落とされがちで、もっとも重要な項目です。
入社1ヶ月目から、属人化させない業務設計を意識的に進めること。
これを最初から意識しないと、必ず属人化します。1年後に「この人が辞めたらマーケが止まる」という状態になり、また3年後にゼロからやり直す未来が確定します。
仕組み化を前提にした入社オンボーディング
入社後の最初の1ヶ月、担当者にやってもらうべきは、業務の実行ではなく、業務の構造化です。
- 既存業務の棚卸しと、誰が何をやっているかの可視化
- 代理店との過去のやり取りの整理と、引き継ぎ事項のドキュメント化
- 月次レポートのフォーマットを、自分以外でも書ける形に再設計
- KPIの定義書を作成(「なぜこの指標を追うのか」を文章で)
これを最初の1ヶ月で完了させると、その後の業務がすべて「ドキュメント化された前提の上」で進むようになります。新たな属人化を発生させない最大の予防策です。
マーケが属人化する5つのパターンで詳述した属人化の構造を、1人目の段階で防ぐ。これができるかどうかで、3年後の組織の風景が決まります。
8. 雄喜晃の伴走:採用要件の設計から、入社後3ヶ月の併走まで
私たち雄喜晃株式会社のマーケ担当者初採用支援は、採用エージェントの代行ではありません。
採用要件の設計、業務範囲の切り分け、KPIと評価軸の文書化、代理店との関係整理、入社後のオンボーディング設計、入社後3ヶ月の壁打ち相手──これらを経営者の方と一緒にやっていきます。
「いい人を採用したい」というご相談に対して、私たちが最初にお伝えするのは、**「いい人を採る前に、いい人が活躍できる構造を作りましょう」**ということ。順序が逆になっている会社が、本当に多いのです。
採用後の伴走も含めて、初採用が会社の資産になる形で実現すること。これが私たちの役割です。
9. まとめ:採用してから悩むのではなく、採用前に設計する
中小企業がマーケティング担当者1人目を採用する前に、必ず決めておくべき項目は5つあります。
- 項目① 業務範囲を「戦略・実行・運用」の3層で切り分ける
- 項目② KPIと評価軸を、入社前に文書化する
- 項目③ 代理店・外部パートナーとの関係を、入社前に整理する
- 項目④ 育成・サポート体制を、社外も含めて設計する
- 項目⑤ 仕組み化を前提とした業務設計を、入社1ヶ月目から始める
この5つを採用前に固めるだけで、初採用の成功確率は劇的に上がります。逆に、これを決めずに採用要件だけ書き始めると、スキルマッチした人を採れたとしても、活躍できない構造のまま終わる可能性が高い。
「そろそろマーケ担当者を採用したい」とお考えの経営者の方は、ぜひ採用要件を書き始める前に、この5項目を一度整理してみてください。
ご不明点があれば、まずは現状をお伺いするところから。会社の数年後を左右する採用だからこそ、丁寧に設計していきましょう。