1. 「この人が辞めたら、マーケが止まる」と気づいた経営者へ
ある日、マーケティング担当の社員から退職の申し出を受ける。頭の中を最初によぎるのは、本人への労いよりも──**「あの業務、誰が引き継げるんだろう」**という不安ではないでしょうか。
SNS投稿のトーン、広告アカウントの設計意図、代理店とのやり取り、過去の施策の振り返り。すべてが、その1人の頭の中と、その人のPCの中に閉じている。
これが、中小企業のマーケティング現場で最も頻発する”属人化”の構造です。
「マーケティングが社内に根付かない」3つの本当の理由でも触れたように、属人化は中小企業のマーケが仕組みとして機能しない最大の要因のひとつ。ただ、ひとくちに「属人化」と言っても、実際には5つの異なるパターンが組み合わさって起きています。
この記事では、その5つのパターンを具体的に分解し、どこから手を打てば抜け出せるのか、優先順位を含めて整理します。
「うちもそうかもしれない」と感じながら、どう動き出せばいいか分からない経営者の方に、一歩目の指針を示せたら幸いです。
2. パターン①:担当者の”頭の中”にしか業務設計がない
もっとも厄介なのが、業務そのものが言語化されていない状態です。
- 「なぜこの曜日・この時間に投稿しているのか」を聞いても、担当者以外は答えられない
- 広告アカウントの予算配分の意図が、設定画面を見ても読み取れない
- KPIを「なぜこの数字に置いているのか」が、当人の直感に依存している
担当者本人は当然やり方を分かっているので、日々の業務は回ります。しかし、第三者が見て意図を再構成できる形になっていない。このタイプの属人化は、一見「ちゃんと回っている」ので見落とされがちです。
起きる理由は単純で、言語化には時間がかかるから。現場は日々の施策実行で手一杯で、「なぜそうしているか」を整理する余裕がない。そして経営者も、回っている業務にわざわざメスを入れる動機を持ちにくい。
抜け出し方は、ヒアリングをベースにした「業務の意図」の棚卸しから始めます。週に1時間でいい。担当者に「なぜそれをやっているのか」を聞き、第三者が読んで理解できる形に残す。これだけで、属人化の半分は可視化できます。
3. パターン②:アカウント・パスワードが1人に集中している
次に多いのが、運用基盤そのものの属人化です。
SNSのログイン情報、広告プラットフォームの管理権限、分析ツールのアカウント、ドメイン管理画面。これらすべてを、担当者1人のメールアドレスで紐づけている。
「引き継ぎのとき改めて整えよう」と思っているうちに、何年も経ってしまっている会社は少なくありません。
このパターンの怖いところは、担当者が退職した瞬間、物理的にマーケが止まるということです。投稿もできない、広告も止められない、過去データにもアクセスできない。パスワードを知っている人間がいなければ、アカウント復旧に数週間かかることもあります。
抜け出し方は、比較的シンプルです。
- パスワード管理ツール(1Password、Bitwarden等)を導入する
- 各アカウントのオーナー権限を複数人に付与する
- 会社のドメインメール(例:
marketing@yukikou.co.jp)で主要アカウントを紐づけ直す
技術的な難易度は低いのに、後回しになりやすい領域です。しかし、インパクトは5つのパターンの中でもっとも大きい。まずここから着手するのが定石です。
4. パターン③:施策の振り返りがドキュメント化されていない
3つ目は、学びが蓄積されないパターンです。
過去1年間に打った施策のうち、何が当たって何が外れたのか。CPAが改善した月と悪化した月で、何が違ったのか。こうした「振り返りの記録」が、組織のどこにも残っていない。
よくあるのが、月次レポートは出しているのに、振り返りはしていないという状態です。レポートは代理店や担当者が作って提出するものになっており、読んだ後に何を学んで次にどう活かすかが、構造化されていない。
結果、半年前に失敗したのと同じ施策を、また繰り返す。組織としての学習曲線が、平坦なままになっていきます。
抜け出し方は、月次の振り返りテンプレートを1枚作ること。難しいフォーマットは不要です。
- 今月実施した施策(箇条書きで)
- 数字の変化(前月比・目標比)
- 想定と違った点
- 次月に引き継ぐ仮説
これをNotionやGoogleドキュメントに月次で積み上げていくだけで、1年後には貴重なナレッジ資産になります。
ここで大事なのは、**「振り返りを担当者1人に任せない」**こと。経営者か、もう1人別の目線を持った人が読んでコメントを入れる運用にしないと、結局当人の解釈の中で閉じてしまいます。
5. パターン④:外部パートナーとのやり取りが担当者の個人メールで完結している
4つ目は、外部との接点が属人化しているパターンです。
広告代理店、SNS運用代行、制作会社、フリーランスのデザイナーやライター。こうした外部パートナーとのやり取りが、担当者の個人メールの中だけに存在している。
経営者から見ると、「パートナーと何を話しているのか、どんなお願いをしているのか」がまったく見えない。何か問題が起きて担当者が対応できないとき、誰に連絡を取ればいいのかすら分からない、という状況が起きます。
起きる理由は、効率化の誤解です。「いちいち共有するより、担当者が直接やり取りした方が早い」という判断が、結果として情報の分散を生んでいる。目先の効率化のために、組織としての可視性を失っている構造です。
抜け出し方は、外部パートナーとのコミュニケーションをチーム共有のチャネルに集約すること。
- 全パートナーを社内Slack(ゲストチャンネル)に招待する
- メールでのやり取りは社内共有のメーリングリスト(例:
partners@〜)経由にする - やり取りの議事録を必ずNotionかGoogleドキュメントに残す
こうすると、担当者が不在でも別の人間が状況を把握でき、外部パートナー側も「この会社は組織として動いている」という認識で接してくれるようになります。
6. パターン⑤:「できる人しか採用しない」の罠
5つ目は、採用と育成の構造的な属人化です。
マーケティングの後継者を育てようとしても、「この仕事を回せる人材がいない」と毎回判断され、結果として同じレベルの経験者を中途で探すしかなくなる。
これは、業務が”できる人前提”で設計されているからです。マニュアルもチェックリストもフォーマットもなく、経験とセンスに依存した業務設計になっている。だから、未経験者や新卒を配属しても戦力にならず、経験者しか回せない。
この状態が続くと、人件費だけが上がっていきます。経験者の採用コスト、給与水準、そして退職リスク。すべてが組織の負担になる。
抜け出し方は、順序を逆にすることです。「できる人を採用する」ではなく、「誰がやっても一定の水準で回る業務設計を先に作る」。
具体的には、
- 投稿企画の作り方を、5段階のチェックリストに落とす
- 広告運用の日次・週次・月次の確認項目を、テンプレート化する
- レポートのフォーマットを固定し、誰が書いても同じ粒度で出るようにする
ここまでやれば、新卒や未経験者でも業務を回せるようになり、経験者は”設計と判断”に時間を使えるようになります。業務の標準化と、人材の役割分担はセットなのです。
7. 抜け出す順番:5つ同時ではなく、このステップで
5つのパターンをすべて一度に変えようとすると、現場が疲弊して確実に挫折します。優先順位を決めて、順番に剥がしていくのが現実的です。
私たちが推奨する順番は、次の通りです。
Step 1|パターン②(アカウント・情報基盤)
一番低コストで、一番効果が大きい。パスワード管理ツールの導入と、権限の分散から着手する。1〜2週間で完了できるのに、担当者が退職した際のリスクを大幅に下げられます。
Step 2|パターン③(振り返りの構造化)
月次テンプレートを作るだけ。1ヶ月運用してみれば、組織の学習曲線が変わり始める。2ヶ月目から、会議の会話の質が変わります。
Step 3|パターン①(業務の意図の言語化)
これは時間がかかります。週1時間のヒアリングを3ヶ月続けるイメージ。ただし、Step 1〜2を経た後だと、担当者自身も言語化に協力的になっています。
Step 4|パターン④(外部コミュニケーションの集約)
パートナーとの契約更新や、新規パートナーを迎えるタイミングで一気に切り替える。既存のやり取りを無理に移し替える必要はありません。
Step 5|パターン⑤(業務設計と人材育成)
もっとも時間がかかり、もっとも経営判断が問われる領域。Step 1〜4が整って初めて、業務設計の抜本的な見直しに着手できる。逆に言えば、ここに到達すれば、組織は確実に次のステージに行けます。
8. 雄喜晃の伴走:まず「属人化マップ」を一緒に作ります
私たち雄喜晃株式会社がマーケティング支援に入るとき、必ず最初にやるのが**「属人化マップの作成」**です。
どの業務が、誰の頭の中にあり、どこに情報が散在し、どのパターンの属人化が起きているのか。これを可視化するところから、仕組み化の旅が始まります。
分析だけして終わりではありません。マップを作った後、Step 1から順番に、現場に入り、実際に手を動かしながら剥がしていく。これが私たちのスタンスです。
パスワード管理ツールの導入支援、振り返りテンプレートの設計、担当者へのヒアリングの壁打ち役、外部パートナーとのコミュニケーション統合、業務手順書の作成。すべてを伴走者として一緒にやります。
「分析と提案だけ欲しい」であれば、私たちより適した会社はいくらでもあります。しかし、「社内に実行できる人がいない。でも、ちゃんと組織として残したい」。そう感じている経営者の方には、私たちは必ずお役に立てます。
9. まとめ:属人化は、気づいた瞬間から剥がし始める
マーケティングの属人化には、5つの代表的なパターンがあります。
- パターン① 業務の意図が担当者の頭の中にしかない
- パターン② アカウント・情報が1人に集中している
- パターン③ 振り返りが構造化されていない
- パターン④ 外部パートナーとのやり取りが個人メールに埋もれている
- パターン⑤ 「できる人しか回せない」業務設計になっている
これらは、気づいた瞬間に意図的に剥がしにいかないと、必ず固定化します。時間が経てば経つほど、抜け出すコストは上がっていきます。
逆に言えば、順番を間違えずに手を打てば、半年〜1年で組織の風景は確実に変わります。
「うちも、どれかに当てはまっているかもしれない」。そう感じられた方は、ぜひ一度お話を聞かせてください。
まずは貴社の”属人化マップ”を一緒に描くところから。そこから、何を、どの順番で変えていくかを、具体的に一緒に考えましょう。