1. 「原稿をご用意ください」で、止まる

中小企業の経営者の方とお話していて、こんな言葉をよく聞きます。

「制作会社から原稿の依頼が来てるんですけど、書く時間がなくて。もう3ヶ月そのままです」

私が現場で見てきた限り、ホームページ制作が止まる原因の1位は原稿です。写真と並んで、この2つで9割。デザインや金額で止まる会社は、実はそれほど多くありません。

そして厄介なのは、書けないのではなく、書く時間と優先順位が取れないという点です。経営者の1日は、原稿を書くために空いていません。目の前の仕事が常にあります。

「時間ができたら書きます」は、永遠に来ません。これは能力の話ではなく、優先順位の構造の話です。

そして止まっている間、費用は発生していないのに機会だけ失われます。制作会社は待っているので請求も来ません。だから痛みを感じないまま、半年、1年と経つ。いちばん静かに損が積み上がる止まり方です。

この記事では、経営者が原稿を書かずに進める方法を書きます。書かないだけで、内容は伝わるものになります。写真についても同じ問題があるので、そちらは 写真が1枚も無い会社の、ホームページの作り方 に書きました。

2. なぜ書けないのか

書けない理由は3つあります。どれも、努力で解決するものではありません。

① 自分の仕事が当たり前すぎる

毎日やっていることは、説明の必要を感じません。「うちは普通の工務店で、特に変わったことはしていない」とおっしゃる会社に、実際は他社が持っていない強みがあることは本当によくあります。内側からは見えないだけです。

② 誰に向けて書くのかが決まっていない

「みんなに伝わるように」と考えると、書けなくなります。読む人が定まらない文章は、書き出しから決まりません。

③ 文章の良し悪しを気にしすぎる

うまく書こうとして手が止まる。実際には、うまい文章は要りません。必要なのは、事実が過不足なく書いてあることだけです。

この3つは、書き手を変えれば全部消えます。内側から見えないものは、外から聞けば出てきます。

補足すると、②の「誰に向けて書くか」だけは、他人には決められません。ここだけは経営者が決める必要があります。ただ、決めるのは一言で足ります。「神戸市内の、従業員10名くらいまでの会社」。これで十分です。書くのは任せられますが、誰に売るかは任せられないということです。

3. 書かずに渡す:素材だけ出す方法

原稿ではなく、素材を渡します。すでに手元にあるものばかりです。

  • 会社案内やパンフレット。過去に作ったものがあれば、それが土台になります
  • 見積書・提案書。サービス内容と価格の説明が、すでに文章になっています
  • メールの返信。お客様からの質問に答えたメールは、そのままFAQの原稿です
  • 求人票。事業内容と会社の特徴が、他人向けに整理されています
  • 名刺・チラシ・封筒。扱っている品目や資格が書いてあります
  • 許認可の書類。正式な事業内容の表記が確認できます

この6つを渡すだけで、制作側は8割の情報を得られます。新しく書くものは、ほとんどありません。

とくにメールの返信は宝の山です。よく聞かれる質問と、それに対する自分の言葉での答えが、すでに何十通も残っています。過去3ヶ月の問い合わせメールを検索して転送する。これだけで、そのままページになります。

同じ理由で、LINEやチャットでのやり取りも使えます。お客様に説明した文章がそのまま残っているからです。個人情報の部分を伏せて渡せば、素材として十分に機能します。

そして意外に効くのが、社内向けの資料です。新人に仕事を教えるための手順書、外注さんに渡している指示書。これらは難しいことを分かりやすく書いてあるので、そのままサービス紹介の骨格になります。

4. 書かずに渡す:話すだけの方法

素材が無い場合や、素材だけでは足りない場合。話して、それを文章にしてもらいます。

聞かれると答えられる

不思議なもので、「書いてください」だと止まる人が、「教えてください」だと2時間話せます。聞き手がいれば、勝手に言葉が出てきます。制作側にとっては、それをまとめるほうが早い。

聞かれると効く質問

制作会社から聞かれなければ、こちらから話してください。この6つを話せば、ほぼ原稿になります。

  • どんな相談が多いですか。そのままFAQと、サービス紹介の見出しになります
  • どんなお客様が多いですか。業種、規模、地域。読者像が決まります
  • 他社ではなくうちに頼む理由を、お客様は何と言っていますか。これが差別化の言葉です
  • 断ることがあるとしたら、どんな案件ですか。対応範囲が決まります
  • この仕事を始めたきっかけは何ですか。代表挨拶になります
  • 失敗した経験と、そこから変えたことはありますか。信頼に直結する話です

3番目が特に効きます。自分が思っている強みと、お客様が評価している点は、たいてい違います。そしてサイトに書くべきは後者です。

思い出せない場合は、実際にお客様に聞いてみてください。「なぜうちに頼んでくださったんですか」と1人に聞くだけで、驚くような答えが返ってくることがあります。「電話に必ず出てくれるから」「断らないから」。自分では強みだと思っていなかった点が、選ばれている理由だったりします。それがそのまま、サイトの一文になります。

録音して渡す

打ち合わせが取れないなら、一人で話して録音するだけでも構いません。車の中でも、移動中でも。上の6つに順番に答えていく形で10分話せば、それが原稿の素になります。文字起こしは制作側でできます。

5. 生成AIに書かせるとき、どこまで任せられるか

「AIで書けるのでは」というご質問もよく受けます。正直に整理します。

任せられること

  • 文章を整える。箇条書きのメモを、読める文章にする
  • 構成を作る。何をどの順で書くかの下敷き
  • 言い換え。専門用語を、お客様の言葉に置き換える
  • 量を書く。FAQを10個に増やす、といった作業

任せられないこと

  • 事実。創業年、実績、対応エリア、価格。AIは知らないので、それらしい嘘を書きます
  • 強み。他社と違う点は、実際の現場からしか出てきません
  • なぜこの仕事をしているか。ここを作文すると、読んだ人に伝わります

素材を渡して整えさせるのは有効で、ゼロから書かせるのは危険。この線引きです。

もう1つ、実務でよくある事故を書いておきます。AIが書いた文章に、実在しない実績や資格が混ざることがあります。「業界20年の実績」「〇〇認定」。それらしいので、そのまま公開してしまう。公開後に取引先から指摘されると、信用の問題になります。

対策は単純で、数字と固有名詞は必ず自分で確認することです。文章の流れはAIに整えさせてよいので、事実の箇所だけ目視で潰してください。

もう1つ。AIだけで書いた文章は、どこかで見た文章になります。業界の一般論が並んで、その会社である必要がなくなる。読んだ人が「他社と何が違うのか」を判断できない文章は、書かないのと同じです。

私たちも文章を整える段階では使いますが、中身は必ず、お話を伺った内容から起こしています。

6. どうしても自分で書くなら

制作会社が原稿を書いてくれない契約もあります。その場合の、いちばん楽な進め方を書きます。

  • 箇条書きでいい。文章にする必要はありません。制作側が整えます
  • 1ページずつ、1日1つ。まとめて書こうとすると始められません
  • 話し言葉のままでいい。「うちは〇〇が得意です」で構いません
  • 数字と固有名詞だけは正確に。ここだけは他人が埋められません
  • 完璧を目指さない。公開してから直せます

期限を切ってください。「今週の金曜まで」と決めないと、書かない状態が続きます。そして、書けなかったら空欄のまま公開すると決めておくのが、いちばん確実です。空欄が公開されると、埋めたくなります。

もう1つ、書く順番も決めておくと進みます。おすすめはこの順です。

  1. 会社概要(事実だけなので迷わない。書き始めのハードルが低い)
  2. サービス内容(見積書からほぼ移せる)
  3. よくある質問(過去のメールから移せる)
  4. 代表挨拶(いちばん時間がかかるので最後)

いちばん書きにくいものから始めない。これだけで、着手率が変わります。

7. 原稿が用意できているかで、見積もりが変わる

もう1つ、費用の話です。原稿を自社で用意するかどうかで、見積もりは大きく変わります。

一般的な相場で言えば、小規模なコーポレートサイトは原稿を自社で用意する前提で30〜80万円ライティングまで含めると50〜100万円というのが目安です。差額が、書く工程の値段です。

ここで判断が要ります。その差額を払って書いてもらうか、自分で書いて安く済ませるか。

私の意見を書くと、書く時間が取れないと分かっているなら、払って書いてもらうほうが結果的に安いです。半年止まった機会損失のほうが、差額より大きいことがほとんどだからです。書かない前提で見積もりを取るという選択肢を、最初から持っておいてください。

判断の目安を1つ。過去に「今度やります」と言って半年以上放置したことがあるものを思い出してください。それと同じ性質の作業なら、今回も同じ結果になります。自分の癖を見積もりに織り込むのは、悲観ではなく現実的な計画です。

見積もりを取るときは、この一言を添えるだけで済みます。

「原稿は用意できないので、ヒアリングから書き起こしていただく形で見積もりをお願いします」

8. 雄喜晃の伴走:原稿をご用意くださいとは申し上げません

私たち雄喜晃は、「原稿をご用意ください」とは申し上げません。お話を伺った内容と、お手元にある資料から、こちらで書き起こします。理由は単純で、そこで半年止まるのを何度も見てきたからです。

進め方は、こうです。ご相談をいただいたら、事業内容と、どんなお客様が多いかを伺います。会社案内や見積書のような手元の資料があれば、それもお預かりします。そこから先は、こちらで形にします。できあがったものを見て、違うところを指摘していただく。書くより、直すほうがずっと簡単です。

そして、契約前にサンプルとしてお見せするところまでを無料でやっています。実物を見てから判断していただくためですが、原稿が無い状態でも実物が出てくるという点でも、動き出しやすいはずです。

一方で、私たちがやらないことも書いておきます。事実を作文することはしません。実績が無いのに有るように書く、創業年を曖昧にする、といった書き方はしません。無いものは無いまま、あるものだけで構成します。

「原稿の依頼が来たまま、何ヶ月も止まっている」という会社には、私たちは間違いなくお役に立てます。今の状態のままご相談ください。実際にお作りしたサイトは 制作実績、料金と条件は ホームページ制作のページ に載せてあります。

9. まとめ:書くのではなく、話す・渡す

原稿で止まらないために必要なことは、3つです。

  • すでにある素材を渡す ― 会社案内、見積書、過去のメール、求人票。新しく書くものはほとんどありません
  • 書かずに話す ― 6つの質問に答えるだけで、原稿の素になります。録音でも構いません
  • 書かない前提で見積もりを取る ― 差額を払って書いてもらうほうが、半年止まるより安いです

この3つで、原稿は制作の障害でなくなります。経営者が原稿を書かないと決めることは、手抜きではなく、時間配分の判断です。

まずは、過去3ヶ月の問い合わせメールを検索してみてください。そこに書いてある自分の返信が、いちばん良い原稿です。

自分の言葉で、お客様に向かって、すでに何度も説明している。それ以上に良い原稿は、新しく書いても出てきません。

ぜひ一度、お話を聞かせてください。書かずに進める形を一緒に作るところから、ご一緒します。