1. 「うちも英語版、要りますかね」と聞かれたとき
中小企業の経営者の方とお話していて、こんな言葉をよく聞きます。
「最近、外国のお客さんが増えてるらしいんですよ。ホームページも英語にしたほうがいいんですかね。よそのサイトを見てたら、右上に言語を切り替えるボタンが付いてて。あれ、うちにも付けられます?」
このご相談、ここ一年でかなり増えました。そして私が現場で見てきた限り、ボタンを付けたこと自体が成果になった例は、ほとんどありません。
理由は単純で、翻訳ボタンを付けることと、多言語に対応することは別の話だからです。ボタンは仕組みの話で、多言語対応は商圏の話です。順番が逆になっている会社が、本当に多いと感じています。
この記事で分かること
この記事では、貴社に多言語対応が要るかどうかを、感覚ではなく商圏の実態から判断する手順を書きます。作る前に確かめられることがあるので、まずそこから始めます。
そのうえで、要ると判断した場合にどこまでやるか、逆にやらなくていいことは何かを整理します。地図の情報とホームページのどちらを先に整えるかについては Googleマップとホームページ、どちらを先に整えるか にまとめてあります。この記事はその続きにあたる話です。
2. 翻訳ボタンを付けることは、多言語対応ではありません
まず、いちばん多い形から片付けます。
自動翻訳をページに埋め込む方式
ページに小さな部品を貼り付けると、閲覧している人の側で機械翻訳がかかる。この方式は昔からあって、費用もほとんどかかりません。だから、制作会社によっては「多言語対応済み」としてこれを付けます。
短所を先に言うと、訳された文章の中身を、貴社が確認できません。翻訳は閲覧者の画面の中で起きるので、どう訳されたかは貴社側からは見えない。ここが一番の問題です。
誤訳が、そのまま責任の話になります
日常の説明文なら、多少ぎこちなくても意味は通ります。危ないのは、料金と条件です。
- 「税別」が抜けて訳され、表示価格で請求できると受け取られる
- 「小学生以下無料」が「小学生は無料」になり、対象の範囲がずれる
- 「要予約」の一言が弱く訳され、飛び込みで来店される
- 「〇〇はお受けできません」という断りの一文が、条件付きの可能な表現になる
- キャンセル料の発生時点が、実際より遅い時点として伝わる
金額と条件のところで食い違うと、現場でのやりとりが揉めます。「サイトにこう書いてあった」と言われたときに、貴社の手元には日本語の原文しかない。この状態は、対応の負担としてもかなり重いです。
検索の面でも、あまり効きません
もう一点。閲覧者の画面の中で訳される方式は、検索エンジンから見ると日本語のページのままです。英語で検索している人に見つけてもらうための助けにはなりません。
つまり、この方式は「来た人に読ませる」ためのもので、「来てもらう」ためのものではない。そこを混同したまま導入すると、付けたのに何も変わらないという結果になります。
私は、自動翻訳を全否定しているわけではありません。既に来ている人の理解を少し助ける、という限定的な用途なら意味はあります。ただし、それを多言語対応と呼ぶのはやめたほうがいいと思っています。呼んでしまうと、本当に必要な判断をしないまま終わるからです。
3. まず、来ている人がいるかを確かめる
多言語対応が必要かどうかは、貴社の商圏で決まります。そして商圏の実態は、作る前に、今あるサイトで確かめられます。
アクセス解析の、言語と地域を見る
Googleアナリティクス(GA4)が入っていれば、閲覧者がどの言語設定の端末で見ているか、どの国・地域から見ているかが分かります。見る場所は2つだけです。
- 言語。端末の言語設定です。日本語以外がどれくらいの割合を占めるか
- 国・地域。日本以外からの閲覧が、どの国からどれくらいあるか
期間は直近12か月で見てください。観光や出張には季節の波があるので、1か月だけ見ると判断を誤ります。
数字の読み方
ここは丁寧に見る必要があります。日本語以外の数字が出ていても、そのまま需要とは限りません。
- 日本国内に住んでいる外国籍の方。この場合、必要なのは観光向けの案内ではなく、生活者向けの実用情報です
- 海外の営業メールを送るための自動収集。これは人ではないので、数に入れてはいけません
- 日本語ができる方が、端末だけ英語設定にしている。留学生や海外赴任経験者に多い形です
私が見てきた中では、数字が出ていても、実際の来店や問い合わせにつながっていないケースのほうが多いです。だから、解析の数字と現場の実感を突き合わせてください。「そういえば先月、英語で電話が来た」「地図アプリの経路案内で来た外国の方が週に何組かいる」という現場の記憶のほうが、判断材料としては強いことがあります。
Googleマップ側の数字も見る
来店が発生する業種なら、Googleビジネスプロフィールの管理画面も見てください。クチコミが外国語で付いているか、経路検索がどこから行われているか。地図はホームページより先に見つけられるので、ここに反応があるなら実際に来ています。
この確認に費用はかかりません。そして、この確認をせずに英語版を作った会社は、作った後も効果が分かりません。比べる前の数字が無いからです。
4. 必要な業種と、必要でない業種の分かれ目
商圏の話を、業種の形で整理します。ここは断定を避けたいのですが、傾向としてははっきり分かれます。
必要になりやすい業種
相手が日本語を話さないまま、その場で判断して買う業種です。
- 宿泊。予約の段階で日本に住んでいない人が相手になります
- 飲食。とくに観光の動線上にある店。メニューと支払い方法が伝わるかどうかで入店が決まります
- 観光まわりの小売。土産物、専門店、体験型のサービス
- 免税対応をしている店。制度の説明が必要になります
- 医療・クリニックの一部。周辺に外国籍の居住者が多い地域では、実務として必要です
共通しているのは、その場で来て、その場で決まるという点です。事前に誰かが通訳する余地がありません。
必要になりにくい業種
一方、次のような業種では、多言語対応の優先順位は低くなります。
- 地元の工務店・リフォーム。契約と施工に日本語のやりとりが必ず要ります
- 士業。書類が日本語である以上、実務は日本語で進みます
- BtoBの下請け・受託加工。取引先は国内の元請けです
- 地域密着の生活サービス。理美容、整体、教室など。商圏が半径数キロなら、対象は地域の住民です
もちろん例外はあります。国際物流を扱う運送会社、外国人材の受け入れを支援する士業、海外から材料を仕入れる製造業。実際に相手が日本語を話さないなら、業種にかかわらず必要です。業種で決まるのではなく、相手で決まる、と考えてください。
判断の一行
迷ったときの目安を1つだけ書きます。
直近1年で、日本語が通じない相手とのやりとりが実際に何回あったか。ゼロなら、今は不要です。数回あったなら、その数回が何のやりとりだったかを見てください。道を尋ねられただけなら、必要なのはホームページではなく地図です。
業種ごとにサイトへ何を載せるかは 業種別・ホームページに必ず載せるもの ― クリニック/美容/小売/教室 にまとめました。多言語の前に、日本語の側で足りていない情報がないかを先に見てください。
5. 多言語より先に効くもの ― 手を付ける順番
必要だと判断した場合でも、いきなりサイトの翻訳から始めるのは、いちばん効率の悪い順番です。順番があります。
アクセス解析の言語と地域、Googleマップのクチコミと経路検索を、直近12か月で見ます。費用はゼロ、所要は30分ほど。ここで反応が無ければ、先に進む必要はありません。
店名の英語表記、業種、営業時間、支払い方法、設備の項目を埋めます。外国語で検索する人は、ホームページより先に地図を見ます。費用はかからず、反映は数日から数週間。
外観、店内、商品、そしてメニューや価格表そのものの写真。言葉が分からなくても、写真は伝わります。実際、飲食では写真の有無が入店の判断を左右します。
全ページの翻訳ではありません。必要な情報だけを絞った1枚を足します。ここで初めてホームページの出番です。直せる形にしておけば、後から増やせます。
英語の1枚に反応があり、かつ別の言語のクチコミや問い合わせが実際に来ているなら、そこで初めて次の言語を検討します。反応が無いまま広げない。
読み方は上から順です。上にあるものほど費用が小さく、反応が早い。多くの会社は段階4から始めてしまいますが、段階2と3を飛ばしたまま英語ページを作っても、そのページに辿り着く人がいません。
なぜ地図が先なのか
外国から来る人の多くは、スマートフォンの地図アプリで、その場から近い店を探しています。「Kobe ramen」のように打ち込んで、地図の枠に出てきた数件から選ぶ。この段階で、ホームページはまだ見られていません。
しかも地図アプリの表示は、閲覧者の端末の言語設定に合わせて自動的に切り替わります。店舗情報を正しく埋めておくだけで、英語で表示されます。費用はかかりません。
写真が、言葉の代わりをします
段階3を軽く見ないでください。メニューや価格表を撮って載せておくだけで、入るかどうかの判断ができるようになります。文章を訳すより、写真を1枚足すほうが早いことは、実際によくあります。
これは飲食に限りません。小売なら商品の陳列、宿泊なら部屋と浴室、クリニックなら待合と入口。入る前に知りたいことは、だいたい写真で答えられます。
6. やるなら、全ページではなく1ページだけ
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
全ページ翻訳の、隠れた費用
英語版を全ページ作ると、その後ずっと、更新のたびに2倍の作業が発生します。営業時間を変えたら2箇所、料金を改定したら2箇所。3言語にすれば3倍です。
私が実際に見てきたのは、日本語だけが更新され、英語版が2年前のまま放置されているという形です。古い料金が英語で残っていると、正しい情報を出しているより厄介なことになります。更新が続く仕組みの作り方は 更新を続けられる会社と、止まる会社の違い に書きました。
言語を増やすことは、ページを増やすことではなく、維持する対象を増やすことです。ここを見誤ると、必ず止まります。
英語の案内ページ、1枚に載せるもの
だから私たちは、まず英語のページを1枚だけ作ることをおすすめしています。載せるのは次の6つで足ります。
- 何の店か、何をする会社か。一文で。業種が伝われば十分です
- 場所と行き方。住所、最寄り駅からの経路、地図へのリンク。徒歩何分かは必ず
- 営業時間と定休日。祝日の扱いも書いておくと問い合わせが減ります
- 価格。代表的なものだけでいい。税込みか税別か、支払い方法(現金のみかどうか)も
- 予約の方法。必要か不要か。必要ならどこから、何日前までか
- 対応できないこと。ここが抜けがちです
6つ目を、必ず書いてください
「できないこと」を書くほうが、できることを書くより効きます。
たとえば、現金のみでカード決済ができない、英語を話せる従業員が常駐していない、持ち込みは断っている、子ども連れは席の都合で受けられない時間帯がある。これを先に書いておくと、来てから断ることがなくなります。
来てから断るのは、相手にとっても貴社にとっても、いちばん負担の大きい形です。断りの一文は、失客ではなく、無駄足を減らす案内だと考えてください。
日本語の直訳にしない
もう1つ。この1枚は、日本語ページの翻訳ではありません。載せる内容そのものを絞り直したページです。
日本語のページには、会社の理念や沿革、代表の挨拶が入っているかもしれません。それらは、その場で判断して入る人には要りません。要るのは、入れるかどうかを決めるための情報だけです。
7. 決めておくこと ― 問い合わせが来たあとと、言語を広げる判断
作る前に決めておくべきことが、2つあります。
英語で問い合わせが来たら、誰がどう返すか
ここを決めないまま作らないでください。いちばん困るのは、英語のページを作ったのに、届いた英語のメールに誰も返せないという状態です。
決めておくことは3つです。
- 誰が見るか。届いたメールに気づく人を1人決める
- どう返すか。翻訳ツールで返す、定型文を用意しておく、日本語で返すと最初に断っておく。どれでも構いませんが、決めておく
- 返せない内容は何か。細かい相談は受けられないなら、フォームの案内文に先に書いておく
返せないなら、フォームを置かないという判断もあります。電話番号と営業時間だけ載せて、来店してもらう形にする。それでも成立する業種は多いです。返信が来ないほうが、印象としては明確に悪いです。
中国語・韓国語まで広げるかどうか
英語の次を検討するときの材料を、3つ挙げます。
- 実際のクチコミの言語。Googleマップに付いたクチコミが何語で書かれているか。これがいちばん正直な数字です
- 近隣の同業がどうしているか。同じ商圏で先に対応している店があるなら、そこには理由があります
- 現場が対応できるか。案内を出して人が来たときに、店頭で最低限のやりとりができるか
言語を増やすほど、来る人と受けられる体制の差が開きます。そこが開きすぎると、来てもらったのに満足してもらえないという結果になります。増やす順番は、英語 → 反応を見る → 必要なら次、で十分です。
検索エンジン向けの、最低限
技術的な話は、実は貴社が知っておく必要はほとんどありません。制作会社に伝えるだけで済みます。覚えておくのは2つだけです。
- 言語ごとにURLを分ける。同じページの中で言語を切り替えるのではなく、日本語と英語で別のアドレスにする
- hreflang の指定を入れてもらう。どのページがどの言語版かを検索エンジンに伝える印です
この2語を制作会社に伝えれば通じます。意味を理解する必要はありません。逆に、これを伝えて話が通じない相手であれば、多言語の実装は任せないほうが無難です。
8. 雄喜晃の伴走:作る前に、要らないと申し上げることがあります
私たち雄喜晃のホームページ制作は、ご要望をそのまま形にする受託ではありません。
多言語対応のご相談をいただいたとき、私たちがまずやるのは、アクセス解析とGoogleマップの数字を一緒に見ることです。そのうえで、来ている人がいないと分かれば、そう申し上げます。作らないほうがいい時期に作るのは、貴社にとっても私たちにとっても損だからです。
私たちがやらないこと
はっきり書いておきます。翻訳そのものは、私たちの本業ではありません。契約書や規約のように、訳し方が責任に直結する文書の翻訳は、翻訳会社にお願いされたほうが確実です。
多言語のカスタマーサポートも、範囲外です。英語の問い合わせに代わって返信する業務は、お引き受けしていません。そして、「とりあえず翻訳ボタンを付けましょう」とも申し上げません。それは対応したことにならないからです。
私たちができるのは、要るか要らないかを一緒に見極めて、要ると決まったときに、維持できる形で作ることです。英語の案内ページを1枚足す、URLを分ける、Googleマップの情報を整える。ここはご一緒できます。
料金と条件
料金は制作費0円、月額8,800円(税別)からです。サーバー、独自ドメイン、SSL、保守はすべて月額に含まれます。月5回までの更新代行も同じ月額の中なので、営業時間や価格が変わったときに、そのつど費用は発生しません。代表の木戸がヒアリングから制作、運用まで直接担当します。
条件も先に書きます。最低契約期間は6ヶ月です。7ヶ月目以降はいつでも解約でき、違約金はありません。ただし、7〜35ヶ月目で解約された場合、サイトは非公開になります。36ヶ月以上ご継続いただいた場合は、ドメイン代等のご負担を条件に、サイトをお渡しします。ここは契約前に必ずご説明します。
「外国のお客様が実際に来ているが、案内する場所が無い」という段階の経営者の方には、私たちは間違いなくお役に立てます。ご相談いただいたら、貴社のホームページのサンプルを先に無料でお作りします。見てお断りいただいても費用はかかりません。実際にお作りしたサイトは 制作実績、料金と条件は ホームページ制作のページ に載せてあります。神戸市北区鈴蘭台を拠点に、2025年10月から活動しています。
9. まとめ:ボタンではなく、商圏で決める
ホームページの多言語対応を判断するために必要なことは、4つです。
- 翻訳ボタンは対応ではない ― 訳された中身を貴社が確認できず、料金と条件の誤訳が現場の負担になります
- 作る前に、来ている人がいるかを確かめる ― アクセス解析の言語と地域、Googleマップのクチコミ。費用はかかりません
- 地図と写真が先、ページは後 ― 外国語で探す人は、ホームページより先に地図を見ています
- やるなら1ページだけ ― 全ページ翻訳は、維持する対象を言語の数だけ増やします
この4つで見ていくと、多くの会社では「今はまだ要らない」か「地図を整えれば足りる」という結論になります。それでいいと思っています。要らない時期に作らないことも、立派な判断です。
そのうえで、実際に外国のお客様が来ているなら、英語の案内を1枚置く価値は確実にあります。ただし、置く前に「問い合わせが来たら誰が返すか」だけは決めてください。ここが決まっていないまま作ると、対応できない期待だけが増えます。
まず、今日できることを1つ。アクセス解析の画面を開いて、直近12か月の言語と地域を見てみてください。10分で終わります。そこに答えの半分が出ています。
ぜひ一度、お話を聞かせてください。要るか要らないかを見極めるところから、ご一緒します。