1. 「WordPressでお願いします」と言う前に
中小企業の経営者の方とお話していて、こんな言葉をよく聞きます。
「WordPressで作ってもらったんですが、結局一度も更新してないんですよね。ログインの仕方も忘れました」
WordPressは世界でいちばん使われているサイトの土台で、選択肢として間違っていません。ただ、選ばれる理由が「自分で更新できるから」なのに、実際には更新されていないというズレが、中小企業では本当によく起きます。
WordPressにするかどうかは、機能の比較で決まる話ではありません。貴社が自分で更新するのか、しないのか。決まるのはそこだけです。この記事では、その判断を実態から整理します。
先にお伝えしておくと、この記事は「WordPressはやめたほうがいい」という話ではありません。合う会社にはこれ以上ない選択肢です。ただ、選ぶ理由と実際の使い方がズレていると、余計な手間とリスクだけが残ります。そこを分けたいだけです。
なお、どの土台で作ってもドメインの名義と解約時の扱いは別問題として残ります。そちらは 月額制のホームページを解約したら、サイトはどうなるのか に書きました。
2. WordPressで何ができて、何が必要になるか
まず事実を整理します。
できること
- 管理画面から文章と写真を差し替えられる。お知らせ、実績、スタッフ紹介など、増えていく情報に強い
- ブログ・記事を積み上げられる。検索から人を集める設計にするなら、これがいちばん素直です
- プラグインで機能を足せる。問い合わせフォーム、予約、多言語、会員機能
- 扱える会社が多い。制作会社を変えるとき、引き継げる相手が見つかりやすい
代わりに必要になること
- 更新作業。WordPress本体、テーマ、プラグイン。それぞれに更新が来ます。放置すると脆弱性が残ります
- バックアップ。更新に失敗すると表示が壊れることがあります。戻せる用意が要ります
- サーバーの選定。動かすための条件があり、安すぎるサーバーだと遅くなります
- 不正ログイン対策。世界中で使われているぶん、狙われる数も多いです
この4つを誰がやるかが、WordPressを選ぶときの本当の論点です。制作会社の保守に含まれているなら問題ありません。含まれていないなら、自社でやることになります。
補足すると、更新の頻度は思っているより高いです。本体の細かな更新は年に数回、プラグインは1つあたり月に1回来ることもあります。10個入れていれば、通知は毎週のように届きます。ここを「あとでまとめて」にすると、まとめて壊れるリスクが上がります。
3. 「自分で更新できます」の実態
正直に書きます。私が見てきた中で、納品後に自社で継続的に更新できている中小企業は、多くありません。理由は能力ではなく、優先順位です。
- 更新の担当を決めていない(「みんなで」は誰もやらないという意味です)
- 決めた人が他の業務で手一杯になる
- 半年空くと操作を忘れる
- 崩れたら怖い、という心理的なブレーキがかかる
- 崩れたときに直せる人が社内にいない
とくに4つ目が効きます。触ったら壊れるかもしれない、という状態だと、人は触りません。そして触らないまま1年経つと、更新できる形にした意味がなくなります。
ですから、判断の質問はこうなります。
「更新を担当する人の名前を、今この場で言えますか」
言えるなら、WordPressは強い選択肢です。言えないなら、自分で更新できることに価値を置いて選ぶ理由がありません。
もう1つ、実務でよく見る形があります。担当者は決まっていて、実際に更新もしていたが、その人が辞めたというケースです。ログイン情報が引き継がれておらず、誰も入れなくなる。制作会社との契約も切れていて、連絡先も分からない。
これを防ぐのは簡単で、管理画面のIDとパスワードを、担当者個人ではなく会社として保管しておくことです。ドメインとサーバーの情報も一緒に、1枚の紙かファイルにまとめておいてください。これは土台が何であっても必要な備えです。
4. 更新しない前提なら、何を選ぶか
自社で更新しないと決まっているなら、選択肢は2つです。
① 静的なサイト(HTMLで作る)
管理画面を持たない、シンプルな作りです。
- 速い。表示が軽く、スマートフォンでも待たされません
- 壊れにくい。動く部分が少ないので、放置しても不具合が出にくい
- 狙われにくい。ログイン画面が無いので、不正ログインの対象になりません
- 更新は制作会社に頼む。自分では触りません
更新の頻度が年に数回で、全部外注する前提なら、これがいちばん合理的です。
デメリットも書いておきます。自分では1文字も直せません。「今日から年末年始の営業時間を出したい」というときに、制作会社に頼んで待つことになります。急ぎの告知が多い業種(飲食、イベント、小売)だと、これが不便に感じられる場面はあります。そこは更新の依頼が何日で返ってくるかとセットで判断してください。
② 月額制のサービス
制作から更新まで含めて月額で任せる形です。更新の依頼先が最初から決まっているので、「頼みにくい」という心理的な壁が生まれにくいのが実務上の利点です。
ただし条件の幅が大きいので、契約前に最低契約期間・解約時の扱い・更新の回数を確認してください。ここは 「制作費0円」のホームページは、どこで回収されているのか にまとめてあります。
どちらでもない選択:管理画面つきの静的サイト
近年は、中身だけ管理画面から書き換えられて、表示は静的という作り方もあります。速さと安全性を保ったまま、お知らせだけ自分で足せる形です。実績やお知らせを月に何度も足すが、他は変えない、という会社に向きます。
迷ったときの決め方
3つを並べても決めきれない場合は、この1年で何回サイトを直すことになりそうかを数えてください。
- 年0〜2回 ― 静的なサイト。直すときだけ頼めば済みます
- 年3〜12回 ― 月額制。頼む回数が多いので、都度見積もりだと手間と費用がかさみます
- 月に何度も、自分の手で ― WordPress。担当者が決まっていることが前提です
回数で決めると、迷いません。「将来使うかもしれないから多機能なほうを」で選ぶと、使わない機能の保守だけが残ります。
5. 記事を積み上げるなら、WordPressが向く
例外があります。検索から集客するために記事を書き続けるなら、WordPressは有力です。
- 記事を追加する作業が管理画面で完結する
- カテゴリやタグの整理がしやすい
- 検索エンジン向けの設定がプラグインで揃う
ただし前提があります。書く人がいること。月に1本でも書き続けられるなら意味がありますが、3ヶ月で止まるなら、記事機能そのものが無駄になります。
記事を外注する場合も同じで、外注先が入稿までやるのか、原稿だけ渡されるのかで必要な形が変わります。原稿だけ渡されるなら、結局誰かが入稿するので、管理画面が要ります。
そしてもう1つ。記事を書くこと自体が目的にならないようにしてください。記事は、その言葉で探している人を連れてくるための道具です。誰も探していない言葉で100本書いても、何も起きません。書き始める前に、どの言葉で探されたいかを決める。ここが決まっていれば、月1本でも効きます。
6. 乗り換えやすさで比べる
もう1つ、長い目で効く観点があります。制作会社を変えるとき、どれが動かしやすいか。
| 引き継ぎやすさ | |
|---|---|
| WordPress | 扱える会社が多い。データも持ち出せる。乗り換えはしやすい |
| 静的なHTML | ファイルを渡せば済む。いちばん単純 |
| 制作会社の独自システム | 原則として持ち出せない。同じシステムが無いと動かない |
3つ目は要注意です。月額が安い代わりに独自システムを使っているサービスは少なくありません。契約前に「WordPressですか、それとも自社システムですか」と一言聞けば分かります。
独自システムが悪いわけではありません。まとめて管理しているから安く保てている、という面が確実にあります。ただ、後で動かせないという前提は知っておくべきです。
なお、乗り換えやすさをどれだけ重く見るかは会社によります。長く同じ相手と付き合うつもりなら、優先度は下がります。逆に、過去に制作会社との関係で困った経験があるなら、ここは最優先で見る価値があります。
7. セキュリティと保守の現実
WordPressを選ぶなら、保守が付いているかどうかだけは必ず確認してください。
放置されたWordPressで実際に起きることは、こういう形です。
- 古いプラグインの脆弱性から侵入され、身に覚えのないページが大量に作られる
- 検索結果に、自社サイトなのに関係のない言葉で表示されるようになる
- Googleから「このサイトは安全でない可能性があります」という警告が出る
- 取引先から「御社のサイトが変です」と連絡が来て、そこで初めて気づく
復旧には、原因の特定、不正ファイルの除去、パスワードの総入れ替え、Googleへの再審査申請が要ります。作るより時間がかかることもあります。
保守の有無は、こう聞けば分かります。
「WordPress本体とプラグインの更新は、どちらが行いますか。頻度はどのくらいですか」
「お客様側でお願いします」という答えなら、社内でやる人を決めてから契約してください。決められないなら、静的なサイトか、保守込みの月額制のほうが安全です。
あわせて、バックアップがどこに、どのくらいの頻度で取られているかも聞いておいてください。「サーバー側で取っています」という答えの場合、それが何日分残るのかまで確認します。1日分しか残らない設定だと、気づいたときには上書きされていることがあります。
8. 雄喜晃の伴走:更新を、こちらで引き受けます
私たち雄喜晃がお作りするサイトは、表示が速く壊れにくい形を基本にしています。そのうえで、更新はこちらで引き受けます。月5回までの修正更新を月額に含めているのは、「自分で更新してください」と渡しても実際には更新されない、というのを何度も見てきたからです。
管理画面の操作を覚えていただく必要はありません。チャットで「ここをこう直してください」と送っていただければ、こちらで直します。分析や提案だけで終わらせず、実際に手を動かすところまでが月額の中身です。
一方で、私たちがやらないことも書いておきます。会員機能や予約システムのような、作り込みが必要な開発は範囲外です。そういう要件なら、WordPressで組める制作会社か、社内にエンジニアを抱えている会社のほうが確実です。範囲外のことを範囲内だと言うつもりはありません。
「WordPressで作ってもらったが、一度も更新できていない」という状態の会社にも、私たちはお役に立てます。作り直す前に、今の形のまま更新だけ引き受けられないかを、一緒に見るところからです。実際にお作りしたサイトは 制作実績、料金と条件は ホームページ制作のページ に載せてあります。
9. まとめ:土台ではなく、運用で決める
WordPressにするかどうかを判断するために必要なことは、3つです。
- 更新を担当する人の名前を言えるか ― 言えないなら、自分で更新できることに価値はありません
- 記事を書き続けるつもりがあるか ― 書くならWordPressが向きます。書かないなら要りません
- 保守を誰がやるか ― ここが空欄のWordPressは、時間とともにリスクになります
この3つで決まります。逆に、機能の一覧を並べて比べても答えは出ません。どの土台でも、たいていのことはできるからです。
もう一度書いておきます。WordPressが悪いのではありません。更新する人がいる会社にとっては、いまでも最良の選択肢のひとつです。合わないのは、「自分で更新できるから」という理由だけで選んで、実際には更新しない場合です。
もし今WordPressのサイトをお持ちで、一度も更新していないなら、まず管理画面にログインできるか試してみてください。それだけで、今の状態が分かります。
ぜひ一度、お話を聞かせてください。今の形を活かせるかどうかを見極めるところから、ご一緒します。