1. 原稿は、社長が書くものだと思われている

中小企業の経営者の方とお話していて、こんな言葉をよく聞きます。

「原稿は私が書かないといけないと思っていて。でも社長の仕事をしながら書く時間が取れなくて、もう4ヶ月そのままです」

この「私が書かないといけない」が、たいてい止まっている原因です。社長が書く前提になっているから、社長の空き時間が出るまで何も進みません。そして社長の空き時間は、構造的に出てきません。

以前、ホームページの原稿を、経営者が書かずに済ませる方法 という記事を書きました。あちらは制作側が取材して書き起こす話でした。この記事は、その続きです。扱うのは社内で分担する話で、相手は制作会社ではなく貴社の社員です。

書いていることは単純です。原稿を1人で書くと止まる。ところが社員のほうが具体的に書ける部分が確実にあって、そこを回すだけで動き出します。しかも、社長が書くより中身が良くなることが珍しくありません。

この記事では、どこを社長が書き、どこを社員に回すのか。そして「書いてください」と頼んでも出てこない理由と、代わりに何と言えば出てくるのかを書きます。社内に配る依頼文の例も、そのまま使える形で載せました。

2. 経営者が全部書こうとするから、止まる

「原稿」という言葉が、社長宛てになっている

制作会社から届く依頼は、ほぼ必ず社長宛てです。「会社紹介の原稿をご用意ください」「サービス内容をご記入ください」。宛先が1人なので、そこで渋滞します。

社長が書くべきだと思われている理由も分かります。会社のことをいちばん知っているのは社長だからです。ただ、いちばん知っていることと、いちばん書く時間があることは別です。

社長にしか書けない部分は、思っているより少ない

実際に制作していると分かりますが、サイトに載せる文章のうち、社長しか書けないものは全体の2〜3割です。残りは、現場の人のほうが詳しく、しかも具体的に書けます。

たとえば「施工の流れ」です。社長が書くと「ご相談→お見積り→施工→お引き渡し」のような4行になります。現場の職人さんに聞くと、養生に何時間かかるか、近隣への挨拶をいつ回るか、雨が降ったらどう判断するかまで出てきます。読む人が知りたいのは、後者です。

社員に回さないまま、半年が経つ

ここがもったいないところです。社員に回せば1週間で出てくるものを、社長が抱えたまま半年止まる。その間、費用は発生していないのに機会だけが失われます。制作会社は待っているだけなので請求も来ません。だから痛みを感じないまま時間が過ぎます。

私が現場で見てきた限り、原稿が1週間で揃う会社と、半年止まる会社の差は、文章力ではありません。最初に分担を決めたかどうかです。

3. 経営者が書くべき部分は、3つだけ

社長が書く必要があるのは、次の3つです。ここは他の人には書けません。逆に言えば、ここ以外は回せます。

① 会社の考え方

何を大事にしてこの仕事をしているか。創業のきっかけ、仕事の選び方、お客様との付き合い方の基準。判断の基準は、判断している本人しか言葉にできません。

ここは、きれいな理念文にしなくて構いません。「安く請けるより、やり直しが出ないほうを選ぶ」というような、実際の判断の言い方のままが、いちばん伝わります。

② 断っている仕事

これが抜けているサイトが本当に多いです。何でもできますと書いてあるサイトは、何屋か分かりません。断っている仕事を書くと、受けている仕事の輪郭が出ます。

そして断る線は、社長が決めています。「この規模は受けない」「この工法はやらない」「この地域は行かない」。社員は知っていても、決める権限がないので書けません。ここは社長の仕事です。

③ これから増やしたいこと

今の売上の構成ではなく、これから増やしたい仕事。サイトは将来に向けた入口なので、ここが決まっていないと、どの仕事を目立たせるかが決まりません。

これも社長しか知りません。サイトの構成は、売上の比率ではなく、増やしたい比率で決めます。この一言を社長から聞けるかどうかで、できあがるサイトが変わります。

この3つは、それぞれ5〜10行で足ります。箇条書きでも構いません。社長が書くのは、合計30行ほどです。

4. 社員のほうが具体的に書ける部分

次に、社員に回す部分です。ここは社長が書くより中身が濃くなります。

① 実際の作業の流れ

当日何時に来て、何をして、どのくらいかかるか。誰が来るか、何人で来るか、何を準備してもらう必要があるか。毎日やっている人しか、この粒度では書けません。

そして読む人がいちばん知りたいのはここです。頼むかどうかを決めるとき、人は値段と同じくらい「何が起きるか」を知りたがります。

② お客様によく聞かれること

電話を取る人、現場で説明する人が、いちばん持っています。同じ質問を何十回も受けているので、質問と答えの両方が頭に入っています。

これはそのまま、よくある質問のページになります。よくある質問のページ自体の作り方は よくある質問のページは、何を書くと効くのか に書きましたが、中身を持っているのは社長ではなく、電話を取っている人です。

③ 現場でしか分からない注意点

ここが差になります。「こういう家は追加作業が出やすい」「この時期は在庫が薄い」「この書類を先に用意してもらうと早い」。経験から来る注意点は、現場にしか落ちていません。

そしてこういう一文が入っているサイトは、読んだ人に「分かっている会社だ」と伝わります。業界の一般論が並んだ文章では、絶対に出ない効果です。

表:誰が何を書くか。社長と社員で分けると、原稿は止まらない
誰が書くか書ける部分引き出し方
経営者会社の考え方、断っている仕事、これから増やしたいこと。判断の基準は本人しか言葉にできません。合計30行ほどで足ります書く時間を予定表に入れる。30分を2回で終わります。「時間ができたら」では永遠に来ません
現場の社員当日の作業の流れ、所要時間、準備してもらうもの、追加作業が出やすい条件。毎日やっている人しか書けない粒度です書かせるのではなく聞く。15分で足りる。録音して、文字にするのはこちらでやる
電話・受付の社員よく聞かれる質問とその答え、お客様が勘違いしていること、問い合わせの多い時期。同じ質問を何十回も受けています1週間、受けた質問をメモしてもらう。箇条書きのまま出してもらえば十分です
制作側出てきた材料を、読める順番と言い回しに整える。見出しをつける、長さを揃える、重複を外すここは社内でやらない。整える作業まで社員に振ると、そこで止まります

縦に見ると、社長が書く量がいちばん少ないことが分かります。社長の役目は書くことではなく、分担を決めて最初に回すことです。右の列を見ると、社員に渡すのは「書く仕事」ではなく「答える仕事」になっています。

5. 「書いてください」では出てこない

ここがこの記事でいちばん伝えたい点です。分担を決めても、頼み方を間違えると出てきません。

頼み方で、出てくる量が変わる

「ホームページに載せる文章を書いてください」と頼むと、まず出てきません。出てきても3行です。理由は社長が書けないのと同じで、書くという作業の重さが邪魔をします。

社員の側から見ると、こうなっています。何を書けばいいか分からない。長さが分からない。下手な文章を出して評価に関わるのが怖い。ホームページに載ると思うと、なおさら書けません。書けないのではなく、書くという形式が重いのです。

聞く形にすると、同じ人が30分話す

ところが、同じ人に「ちょっと教えてほしいんですけど」と聞くと、30分話します。これは不思議なくらい再現します。

  • 書く ― 何を書くか自分で決め、構成を考え、文章の形にする。全部その人の負担です
  • 答える ― 聞かれたことに答えるだけ。構成も文章も、聞いた側の仕事になります

やってもらう作業の量が、まったく違います。だから「書いてください」ではなく「聞かせてください」に変えるだけで、出てくる量が変わります。

そして聞くときは、録音してください。メモを取ろうとすると、聞くほうが忙しくなって話が浅くなります。文字にするのは後でできます。

6. 社員から引き出す、5つの質問

聞くといっても、漠然と聞くと出てきません。この5つを順番に聞いてください。15分で足ります。

質問① この仕事でいちばん多い相談は何ですか

まずこれを聞きます。答えがそのまま、サービス紹介の見出しになります。いちばん多い相談は、いちばん売れている仕事です。そしてサイトのトップに出すべきものでもあります。

社長の認識とずれることがよくあります。社長が売りたいものと、実際にいちばん相談が来るものが違う。そのずれ自体が、重要な情報です。

質問② お客様が勘違いしていることはありますか

これが効きます。勘違いされている点は、サイトで先に説明しておけば防げるものです。

「うちは受注生産なので、在庫があると思われると困る」「見積りは無料だと思われていない」。勘違いは、1つ潰すごとに問い合わせの質が上がります。現場の人は、この手の勘違いを毎週受けています。

質問③ 他社と違うと言われたことはありますか

差別化の言葉を、自分で考えないための質問です。自分が思っている強みと、お客様が評価している点は、たいてい違います。そしてサイトに書くべきは後者です。

社員に聞くと、現場で実際に言われた言葉が出てきます。「電話が早い」「職人さんがきれい」「無理と言わない」。社長が考えた差別化より、こちらのほうが効きます。

質問④ 失敗しやすいのはどこですか

お客様側の失敗です。「寸法を測らずに頼んで入らなかった」「準備ができていなくて日を変えることになった」。

これはそのまま、依頼する側への注意事項になります。親切に見えるだけでなく、実際に手戻りを減らすので、社内にも効きます。

質問⑤ 新人がつまずくのはどこですか

これは採用ページ向けの質問ですが、サービス紹介にも使えます。新人がつまずくところは、外から見て分かりにくいところです。つまり、お客様にも分かりにくいところです。

そして採用ページでは、この答えがそのまま効きます。「最初の3ヶ月は覚えることが多い」と正直に書いてあるサイトは、応募者から信用されます。

7. 渡し方と、直し方

質問して答えをもらうのが基本ですが、どうしても書いてもらう場面はあります。そのときの渡し方です。

白紙を渡さない

いちばん大事なのがこれです。白紙に書いてくださいと渡すと、ほぼ戻ってきません。

代わりに、見出しと例文を先に埋めて渡します。

【当日の流れ】(例:朝8時に2名で伺い、まず養生に1時間ほどいただきます。……) ここを、実際の内容に直してください。

この形にすると、書く作業が直す作業に変わります。直すほうが圧倒的に簡単です。例文が実際と違っていれば、人は必ず直したくなります。

文字数は決めない

「500字くらいで」と言うと止まります。文字数を意識した瞬間、書く仕事になるからです。

箇条書きで出してもらって、整えるのはこちらでやります。3行でも構いません。足りなければ、もう1回聞けば済みます。

業務時間内にやる

これは効きます。持ち帰りにすると、出てきません。家に帰ってホームページの原稿を書く人は、まずいません。

やり方は単純で、業務の予定として15分を取ります。「水曜の14時に15分もらいます」と決める。会議室でも、現場の休憩中でも構いません。仕事として時間を取ることが、頼む側の本気度の表明にもなります。

そして、お礼は言ってください。協力してもらった人の名前を、社内で出す。次に聞きたいことができたときに、また話してもらえます。

直すときのルール

出てきた原稿を整えるときに、守るべきことが3つあります。

  • 事実は変えない ― 時間、人数、手順、条件。良く見せるために盛ると、現場と合わなくなります
  • 言い回しだけ整える ― 話し言葉を書き言葉にする、順番を入れ替える、重複を外す。中身は触らない
  • 直した版を、本人に見せる ― これを飛ばすと、次から協力してもらえません

3つ目が特に大事です。自分が話したことが、知らない間に別の言葉に変わって公開されていると、協力した気持ちが消えます。見せて「これで合っていますか」と聞くだけで、信頼が残ります。

そして見せると、たいてい追加が出てきます。「あ、これも言っておいたほうがいい」。2回目のほうが中身が濃くなるので、見せる工程は品質のためにも必要です。

そのまま使える、社内への依頼文

社内に配る文の例を置いておきます。そのまま使っていただけます。

【ホームページ用の原稿について、ご協力のお願い】

来月ホームページを作り直します。会社の紹介や考え方の部分は私が書きますが、実際の仕事の内容は、現場の皆さんのほうが正確に書けます。そこで、次の5つについて教えてください。

  1. この仕事でいちばん多い相談は何ですか
  2. お客様が勘違いしていることはありますか
  3. 他社と違うと言われたことはありますか
  4. お客様側で失敗しやすいのはどこですか
  5. 新人がつまずくのはどこですか

お願いしたいのは、文章を書くことではありません。上の5つに、箇条書きで答えるだけで十分です。文字数も、文章の形も気にしないでください。読める形に整えるのは、こちらでやります。

業務時間内でお願いします。水曜14時から15分、会議室で聞かせてください。来られない方は、箇条書きのメモをメールで送ってください。

書いていただいた内容は、整えたうえで必ず本人に確認してから公開します。事実を変えることはしません。

この文に入れている工夫は4つです。社長が書く部分を先に宣言していること、お願いしているのは書くことではないと明記していること、業務時間内だと書いていること、そして確認してから公開すると約束していること。この4つがあると、返ってくる率が上がります。

採用ページは、社員の言葉がそのまま効く

最後に、いちばん効果が出る場所を書いておきます。採用ページでは、社員の言葉が整えすぎないほうが効きます。

応募者が見ているのは、会社の立派さではなく、入った後の自分です。「1日の流れ」「入ってから覚えたこと」「大変だったこと」。社長が書いた採用ページは、応募者の知りたいことに1つも答えていないことが多いです。

誰を載せるか、何を書くか、退職後にどうするかは 社員紹介ページは、本当に要るのか に整理しました。採用目的なら、代表1人では足りません。応募者と経歴の近い人が必要です。

そして「うちの社員は文章が書けない」とおっしゃる会社ほど、実際に話を聞くと中身が出てきます。書けないのと、語れないのは別です。私が伺った現場で、話すことが何も無かった人には、まだ一度も会っていません。

8. 雄喜晃の伴走:社員の方に書かせることは、しません

私たち雄喜晃は、社員の方に原稿を書いていただくことは、しません。お時間を15分いただいて、聞かせていただくだけです。文字にして、読める順番に整えるのは私たちの仕事です。

進め方

ご相談をいただいたら、まず社長から3つ伺います。会社の考え方、断っている仕事、これから増やしたいこと。これで全体の骨格が決まります。

そのうえで、現場の方と電話を取っている方に、それぞれ15分ずつ伺います。上に書いた5つの質問を順に聞くだけです。会議室でも、現場でも、電話でも構いません。社内で文章を書く作業は、1行も発生しません。

書き上げたものは、話していただいた方ご本人に見ていただきます。事実が違っていれば直します。この順番を守るので、公開した後に現場から「こんなこと言っていない」が出ることがありません。

私たちがしないこと

事実を作文することはしません。実績が無いのに有るように書く、所要時間を短く書く、対応していない地域を書く。こういう書き方はしません。無いものは無いまま、あるものだけで構成します。

もう1つ。整えた文章を、ご本人の確認なしに公開することもしません。手間は増えますが、ここを飛ばすと、2回目に誰も話してくれなくなります。分析や提案だけで終わらせず、原稿を起こすところまで手を動かすのが前提なので、確認の往復も工程に入れてあります。

私たちがお役に立てるのは、「原稿の依頼が来たまま、何ヶ月も止まっている」という会社です。そして「社員に頼んだけれど、出てこなかった」という会社も、一度ご相談ください。頼み方を変えるだけで出てくるからです。

月額8,800円(税別)に、原稿の書き起こしも含めています。実際にお作りしたサイトは 制作実績 に、料金と条件は ホームページ制作のページ に載せてあります。ご相談いただいたら、貴社のサンプルを先に無料でお作りします。原稿が1行も無い状態からでも、実物が出てきます。

9. まとめ:書かせるのではなく、分けて聞く

原稿を社内で回すために必要なことは、3つです。

  • 分担を先に決める ― 社長は3つだけ。会社の考え方、断っている仕事、増やしたいこと。残りは回せます
  • 書いてもらうのではなく、聞く ― 5つの質問を15分。業務時間内に、録音して、整えるのはこちら側でやる
  • 直した版を、本人に見せる ― ここを飛ばすと、2回目に誰も話してくれなくなります

この3つで、原稿は1人の作業ではなくなります。社長が書く量は、思っているより少ないです。

まずは、現場の方に1つだけ聞いてみてください。「この仕事で、いちばん多い相談は何ですか」。返ってきた答えが、貴社のサイトのトップに出すべき一文です。

その一文は、社長が机で考えても出てきません。毎日その相談を受けている人の口からしか出てこないものです。

ぜひ一度、お話を聞かせてください。誰に何を聞くかを決めるところから、ご一緒します。