1. 「うちもネット予約、入れたほうがいいですよね」
中小企業の経営者の方とお話していて、こんな言葉をよく聞きます。
「同業がみんなネット予約を入れてるんですよ。うちも遅れてる気がして。ただ、うちの場合は現場を見ないと時間が読めないので、どうしたものかと」
この後半が答えになっていることが多いです。ネット予約は、入れれば必ず楽になる仕組みではありません。入れると本当に楽になる会社と、入れたせいで確認の電話が増えて、かえって手間が増える会社があります。
分かれ目は、規模でも業種でもありません。枠が単純かどうかの一点です。1回あたりの所要時間が決まっていて、誰が担当しても成立して、料金が枠と1対1で対応している。この3つが揃っていれば、ネット予約は素直に効きます。どれかが崩れていると、システムの側で埋められません。
この記事では、向いている会社と向かない会社の見分け方、入れたのに使われない典型、そして電話のままでよい会社が代わりに整えるとよいことを書きます。特定の予約サービスの良し悪しには触れません。選ぶ前に、そもそも必要かどうかを決めるための整理です。
問い合わせが来ない原因の切り分け全体は ホームページを作ったのに問い合わせが来ない ― 公開後90日でやること にまとめてあります。
2. 楽になる会社と、かえって手間が増える会社がある
先に、期待の置き所を整えておきます。ネット予約を入れて本当に効くのは、電話の本数が減ること自体ではありません。
効くのは、この3つです
- 営業時間外に予約が入ること。夜と早朝に決めたい人を取りこぼさなくなります
- 電話で話す時間が短くなること。日時のすり合わせだけで5分かかっていたものが消えます
- 言った言わないが無くなること。予約内容が文字で残ります
逆に、予約の件数そのものが増えるかどうかは、業種によります。電話が苦にならない客層なら、入口が増えただけで総数は変わらないこともあります。「入れれば増える」という前提で導入すると、成果の判断を誤ります。
手間が増えるのは、こういうときです
- 枠の長さが読めないので、入った予約を毎回電話で確認し直している
- 内容によって担当が変わるので、割り当てを人が組み替えている
- ネットと電話で別々に埋まって、二重に取ってしまった
この3つが起きると、導入前より仕事が増えます。予約を受ける手間は減っていないのに、システムを見る手間だけが足されるからです。
向き・不向きは、3つの質問で決まる
導入を考える前に、次の3つに答えてみてください。すべて「はい」なら向いています。
- 1回あたりの所要時間は、だいたい決まっているか
- 担当は誰でもよいか。指名があるとしても、単純な指名か
- 料金は、枠と1対1で決まるか
この3つの答えを当てはめると、次の3つに分かれます。
所要時間が決まっている。担当は誰でもよいか、指名が単純。料金が枠と1対1。カット、施術、レッスン、検診、点検のような繰り返しの仕事が当てはまります。カレンダーの空きを、そのまま外に見せられます。
所要時間はおおむね読めるが、内容によって前後する。担当がある程度決まっている。この場合は、時間を確定させず予約リクエストとして受ける形にします。折り返して確定する運用を、先に決めておくことが条件です。
下見や相談が前提で、所要時間が事前に分からない。人数や部材によって枠が変わる。内容で担当が変わる。工事、リフォーム、引っ越し、法人向けの相談などが当てはまります。枠を先に切ると、必ず組み替えが発生します。
読み方。①はそのまま導入して構いません。②は運用を決めてから、③は入れないという判断が正解になることが多いです。なお、1つの会社の中に①と③が混在することもあります。その場合は、①に当たるサービスだけをネット予約にして、残りは電話で受けてください。全部を1つの仕組みに乗せる必要はありません。
3. 向いている条件を、もう少し細かく見る
図の①に当てはまるかどうか、判断がつきにくい場合の見方です。
枠の長さが決まっている
「30分」「60分」「90分」のように、メニューごとに時間が固定されているか。これが最も重要です。実際には前後10分ほどぶれても構いません。問題になるのは、同じメニューで30分のときと3時間のときがあるという状態です。
判断に迷うときは、直近1ヶ月の予約を思い出してください。同じ名前のメニューで、所要時間が2倍以上ばらついていたら、枠は決まっていません。
担当が誰でもよい、または指名が単純
「誰でもよい」か、「AさんかBさんを選ぶだけ」であれば問題ありません。難しくなるのは、内容を聞いてから担当を決めている場合です。
この形だと、予約が入った時点では誰が対応するか決まっていないので、結局あとから人が割り振ることになります。システムに入れても、割り振りの手間は残ります。
料金が、枠と1対1で決まる
予約の時点で金額が確定するかどうかです。「見てみないと分かりません」が必要な商売は、ここで外れます。
料金が確定しないまま枠だけ取ると、当日に「思っていた金額と違う」というやり取りが発生します。これは電話で先に説明できていたことなので、ネット予約にしたことで生まれた摩擦です。
逆に、向かない条件
- 下見や相談が前に入る。所要時間が現地を見るまで読めません
- 内容によって担当が変わる。資格や経験で振り分けが要る仕事です
- 人数や部材で枠が変動する。2人がかりなら半分、材料待ちなら翌週、といった揺れがあります
- 1件の単価が大きく、回数が少ない。年に数十件なら、電話で1件ずつ受けたほうが確実です
最後の項目は見落とされがちです。予約の件数が少ない商売では、そもそも自動化する対象がありません。月に5件の予約のために、毎月の費用と管理の手間を足す理由はありません。
4. 入れたのに使われない、3つの典型
導入したものの、ほとんど使われずに終わっている例もよく見ます。原因はだいたい次の3つです。
サイトのどこにも導線が無い
予約ページは存在するのに、トップページから2回も3回もクリックしないとたどり着けないという形です。作った側は場所を知っているので、気づきません。
対策は単純で、上部の帯とページの区切りごとに、予約への入口を置くことです。電話番号と並べて置いてください。どちらを使うかは相手が決めます。
スマートフォンで、入力欄が多すぎる
予約の入力画面が、問い合わせフォームと同じくらい長い。これでよく止まります。予約に必要なのは、日時・名前・連絡先・メニューの4つです。
住所、生年月日、性別、来店のきっかけ。あとで聞けることを先に聞くと、そのぶん減ります。この考え方は 問い合わせフォームで、人はどこで手を止めるのか と同じです。予約フォームも、減らすほど埋まります。
会員登録を求めている
これがいちばん効きます。初めて予約する人に会員登録を求めると、その場でかなりの人が離れます。パスワードを決める、確認メールを開く、ログインし直す。1回きりかもしれない予約のために払う手間としては重すぎます。
登録なしで予約できる形を、必ず1つ用意してください。リピーター向けの登録機能を否定しているのではありません。登録を必須にしないという話です。
5. 空き枠がリアルタイムでないなら、「予約リクエスト」と書く
ここは事故が起きやすいので、独立して書きます。
確定と勘違いされる事故
社内のカレンダーとつながっておらず、送信された内容をあとから人が確認して返すという運用は珍しくありません。仕組みとしては問題ありませんが、画面に「ご予約ありがとうございました」と出ると、相手は確定したと受け取ります。
そして当日に来店され、枠が埋まっていて対応できない。この事故は、実際に起きています。送信した側に落ち度はまったくありません。確定したと書いてあったからです。
言葉を変えるだけで防げる
空き枠がリアルタイムで反映されていないなら、「予約」ではなく「予約リクエスト」と書いてください。そして送信後の画面と自動返信に、次の一文を入れます。
この時点ではご予約は確定していません。〇〇時間以内に、確定のご連絡を差し上げます。
これで誤解は消えます。仕組みを直すのではなく、書き方を直すだけです。費用はかかりません。
あわせて、確定の連絡をいつまでに出すかを決めておいてください。「営業時間内2時間以内」「翌営業日の午前まで」など、社内で守れる約束にします。返信の速さの考え方は 問い合わせが来たあと、何時間以内に返すべきか と同じです。
リアルタイムにするかどうかは、あとで決めればいい
空き枠を本当にリアルタイムで見せるには、社内のカレンダーと連動させる必要があります。これは手間も費用もかかります。まずはリクエスト形式で運用してみて、件数が増えて確認の手間が重くなってから考えれば十分です。
6. 電話のままでよい会社が、代わりに整えること
図の③に当てはまる会社は、ネット予約を入れないという判断で構いません。ただし、電話のままにするなら、電話の側を整えてください。整えずに放置すると、「ネット予約が無いから逃している」ように見えてしまいます。
受付時間を明記する
電話番号の隣に受付時間が書かれていないと、時間外にかけて出なかった人は、もう一度かけてくれません。これは費用ゼロでいちばん効く一行です。電話まわりの整え方は 「ホームページから電話が鳴らない」を、電話の側から直す にまとめました。
折り返しを約束する
「本日中に折り返します」と書いて、実際に折り返す。ネット予約が無いことより、かけて返ってこないことのほうが、はるかに失点が大きいです。
混む時間帯を案内する
「12〜13時と、17時以降はつながりにくくなります」の一文があると、かける側が時間を選べます。つながらなかった経験を、1回減らせます。
時間外の受け皿を1つ置く
夜に決めたい人のために、フォームかメールを1つだけ用意してください。予約システムではなく、ただのフォームで足ります。「ご希望の日時を第3希望までお書きください」と添えておけば、翌朝の折り返しで確定できます。
業種ごとに何を載せるべきかは 業種別・ホームページに必ず載せるもの ― クリニック/美容/小売/教室 にまとめてあります。「今日か、今週か」で判断される業種ほど、受付時間と混雑の案内が効きます。
7. 併用・キャンセル・費用・順番、そして断る条件
導入すると決めた場合に、先に決めておくことをまとめます。
併用するときは、どちらか一方を正とする
ネットと電話の両方で受けるなら、枠の二重取りを防ぐ仕組みが要ります。方法は1つで、どちらか一方を正しい台帳と決めて、もう一方は必ずそこへ転記することです。
現実的には、ネット予約の画面を正とし、電話で受けた予約をその場でネット側に入力する形が回りやすいです。紙の予約表とネットを並行させると、必ずずれます。2つの台帳を持たない。これだけです。
当日キャンセルへの向き合い方
規約は書いておいてください。ただし、厳しくしすぎないことをおすすめします。
- キャンセルの連絡先と、何時までに連絡してほしいかを書く
- 当日キャンセルの扱いを書く(料金を頂くかどうか)
- 無断キャンセルが続いた場合の扱いを書く
書いておく目的は、罰することではなく、連絡しやすくすることです。「当日キャンセルは100%頂きます」と強く書くと、気まずくなった人は連絡せずに来なくなります。連絡さえもらえれば次の人を入れられるのですから、連絡のハードルを下げるほうが得です。
前日にリマインドの連絡を送るだけで、無断キャンセルはかなり減ります。仕組みで減らせるものを、規約で減らそうとしないでください。
費用は、予約1件あたりで割って考える
料金の形は大きく2つです。月額の定額と、予約1件ごとの手数料。どちらが得かは件数で変わります。
判断は単純で、月にかかる合計を、月の予約件数で割ってください。1件あたりいくらになるかが出ます。それが、1件の予約から得られる利益に対して見合うかどうかで決めます。
月5件の予約のために月額の固定費を払うと、1件あたりの負担はかなり大きくなります。逆に月200件あるなら、定額のほうが安く収まります。件数が読めないうちは、手数料型のほうが失敗しません。
導入の順番は、まず1ヶ月記録してから
いきなり選び始めないでください。まず1ヶ月、電話で受けた予約の中身を記録します。表計算1枚で足ります。
- 日付と時間帯
- メニューと、実際にかかった時間
- 担当
- 電話でのやり取りにかかった時間
- その予約が確定するまでに何回やり取りしたか
1ヶ月分が溜まると、判断材料が揃います。所要時間がばらついているか、担当を選んでいるか、確定まで何往復しているか。この記録があれば、図の①②③のどれに当てはまるかは自分で分かります。
そして記録は、導入したあとの比較材料にもなります。入れる前の数字を持っていない会社は、入れてよかったかどうかを判断できません。
入れる前に、断る条件を決めておく
最後にこれです。ネット予約を入れると、対応できない予約が入ってきます。エリア外、対象外のメニュー、明らかに時間の足りない依頼、常識的な範囲を超える連続予約。
断る条件を先に決めていないと、断れずに受けてしまいます。そして無理をした1件が、他のお客様への対応を圧迫します。
決めておくのは3つです。
- 受けない条件(エリア、内容、時間帯)
- 誰が断ると判断するか
- どう伝えるか(定型文を1つ用意しておく)
断る条件を決めることは、質を守ることです。そして早く丁寧に断ると、紹介につながることもあります。この考え方は 問い合わせが増えたあと、社内で何を決めておくか と同じで、受ける前に決めておくものです。
8. 雄喜晃の伴走:入れないという判断も、一緒にします
私たち雄喜晃は、予約システムの開発や導入代行を事業として行っていません。ここは先に書いておきます。特定のサービスを売ることもしませんし、紹介手数料を受け取る立場でもありません。
私たちができるのは、サイトの側から導線を整えることです。予約への入口を上部の帯と区切りごとに置く、電話番号の隣に受付時間を書く、時間外の受け皿になるフォームを用意する、「予約リクエスト」という書き方に直す。ここは制作と更新の範囲で対応できます。
そして、「入れないほうがいい」とお伝えすることもあります。枠が読めない商売にネット予約を入れると、確認の電話が増えて、導入前より手間がかかります。同業が入れているという理由だけで進めるのは、おすすめしていません。まず1ヶ月記録してから決めましょう、という話をすることのほうが多いです。
「ネット予約を入れるべきか、電話のままでいいか判断がつかない」という会社には、私たちはお役に立てます。分析や提案だけで終わらせず、記録の付け方を一緒に決めて、1ヶ月後の数字を一緒に見ます。実際にお作りしたサイトは 制作実績、料金と条件は ホームページ制作のページ に載せてあります。月額8,800円(税別)に月5回までの更新代行が含まれているので、受付時間や予約の案内文の書き換えはご連絡いただければこちらで直します。
9. まとめ:仕組みを選ぶ前に、枠が単純かどうかを見る
ネット予約を判断するために必要なことは、3つです。
- 枠が単純かどうかで決める ― 所要時間・担当・料金の3つが決まっていれば向いています。読めないなら、電話のままで構いません
- 入れるなら、確定の扱いを先に書く ― 空き枠がリアルタイムでないなら、必ず「予約リクエスト」と書きます
- 入れる前に、1ヶ月記録して、断る条件を決める ― 記録が無いと判断できず、条件が無いと断れません
この3つを飛ばして仕組みだけを選ぶと、使われないか、手間が増えるかのどちらかになります。逆に、この3つが決まっていれば、どのサービスを選んでも大きくは外しません。順番が逆になっている会社が、本当に多いところです。
まずは今週から、電話で受けた予約を1枚の表に書き留めてみてください。1ヶ月分が溜まれば、貴社が図の①②③のどれなのかは、ご自身で分かります。
そのうえで、入れないという結論になっても、それは後退ではありません。電話の受け方を整えるほうが、多くの会社では確実に早く効きます。
ぜひ一度、お話を聞かせてください。予約の受け方を、貴社の仕事の形に合わせて一緒に決めていきましょう。